気持ちのリセット

ここのところ、毎年年末には海外へ行くことにしている。貧乏エディターがなにを贅沢に、と自分が一番思うけれど、編集とは、区切りのない世界。締切という明確な区切りがあるように見えるところが、これまたみそであるが、実際は、なんの区切りもなく、締切が近づけばまた次の締切も近づくというだけのことだ。ちいさな本の場合、ほかの人にお願いするなんてことはできないため、年柄年じゅう、仕事が頭から離れることはない。体によくない、というよりも、精神によくない。誰しも、ONとOFFがあるものだし、それが、普通であるべきだ。
 目に見えない精神というやつは実に厄介だ。ひとたび不調を生ずれば、坂道を転げ落ちるようにスパイラルに陥ってしまう。日ごろのストレスにはめっぽう強いため、この仕事につきものの「胃薬」要らずの私だが、精神的に「来る」時は一気に「墜ちて」いくという弱みがある。自覚がある。だから、年に一回は、完全に仕事を自分から切り離す「強制終了」が必要だと考えるのだ。という言い訳を胸に、減っていく貯金残高を見ないふりをして、ひとり旅に出る。
 当然のことながら、仕事帰りに空港へ直行というのがおきまりのパターンだが、編集部のドアを出た瞬間から、見事なまでにリセット効果が現れる。それは、いつもの帰宅風景となんら変わらぬはずなのに、こころの中は、旅立ちモード一色で、まさしく強制終了だ。一年に一度だけ、空港バスから眺める愛すべき街の夜景が美しい。行き先がどこであろうと、この時間はこころが解放される実感でいっぱいなのだ。そう、年明けに再起動した時にはすっきりさっぱり、また気力充実して、新たな年を生きぬいていける気がするのだ。
 さて、今年はどうしようか。予定はまだ未定。